海外子女.com > 海外子女教育支援室だより > ’読書’カテゴリー

‘読書’ カテゴリ内のアーカイブ

本から学ぶ日本語 Part2 「おしいれのぼうけん」

20100414 支援室だより

「本から学ぶ日本語」の2回目をお届けします。第1回の「小学五年生」とうってかわって、本日は、絵本の大ベストセラー「おしいれのぼうけん」です。

1974年に出版され、これまでに180万部以上を売り上げたこの本は、古田足日(たるひ)先生と、田畑精一先生の共著で、ほかに同作家には、「モグラ原っぱの仲間たち」や「ロボットカミィ」などの人気作品があります。

「おしいれのぼうけん」。読者のみなさまの中には、ご自身が子どものころに読んでなつかしく、また、自身のお子さまにも読み聞かせをさせたという経験をおもちの方もたくさんいらっしゃるでしょう。とにかく、ストーリー展開が子どもたちの心を惹きつけて離しません!
「さくらほいくえん」を舞台に、どこにでもいるような登場人物のおともだちを先生たち。ところが、途中からは、超現実の世界が待ちうけていて、現実と非現実のはざまで、読んでいる(聞いている)子どもたちが、まるで自分自身が物語に迷い込んでしまったような錯覚をいだいてしまう。そのあたりが、「おしいれのぼうけん」の最大の魅力ではないでしょうか。
絵本にしては、長めの80ページだてなので、読み聞かせのときは、途中で止まれないというのがつらくもありますが(笑)、読んでいる大人も、じゅうぶんに楽しめる、さすがの一冊です。

さて、お話の楽しさもさながら、この絵本からもたくさんの日本語表現を学ぶことができます。その一つが、「対(つい)」の表現
「対(つい)」の表現とは、「空と海」「雨と風」「楽しいと悲しい」など、音節数が同じで、反対や対の組み合わせの語句を並べることで、表現にリズムやテンポを与える働きをする用法です。

まずは冒頭
P3 ここはさくらほいくえんです。 さくらほいくえんには、こわいものがふたつあります。
P4 ひとつはおしいれで、
P5 もうひとつは、ねずみばあさんです。

そして結末
P79 さくらほいくえんには、とてもたのしいものがふたつあります。
ひとつはおしいれで、もうひとつはねずみばあさんです。

おしいれのぼうけんを経験したさくらほいくえんの園児だちは、「こわい」存在だった、おしいれとねずみばあさんが、最後には「とてもたのしい」ものに変化しているのです。

また、P8(みずのせんせいが、いうことをきかない子をおしいれにいれるとき)
そんなとき、みんなはおしいれがとてもこわくなって、みずのせんせいがとてもきらいになります。
ところが、P12(みずのせんせいが、ねずみばあさんの人形劇をしてくれるとき)
にんぎょうげきのとき、こどもたちはみんな、、みずのせんせいがだいすきです。
そのほかの場面でも、
P16
さとしはねているひとをぴょんぴょんまたいでにげました。
あきらも、ねているひとをぴょんぴょんまたいでおいかけました。

P17
「いたい!」ともこがさけびました。さとしがともこのてをふんだのです。
「いたい!」かずおがさけびました。あきらがかずおのあしをけとばしたのです。

「ともこ」と「かずお」、「さとし」と「あきら」、「て」と「あし」、「ふんだ」と「けとばした」がそれぞれ「対」になっていて、リズミカルに軽快に読みすすめていくことができ、お話もすんなり頭に入っていきますね。

もうご存知のかたも、まだ読んでいない方も、こんなところからも、お子さまにとってはとてもためになる絵本なので、さっそくページをめくってみてはいかがでしょうか。

本から学ぶ日本語

2010/04/08支援室だより

みなさま、こんにちは。久しぶりの「支援室だより」です。

2、3月の受験シーズンも過ぎ、日本では、今、新年度のスタート。学校では、入学式の時期を迎えました。今年は、桜の開花が例年よりやや早く、入学シーズンまで待ってはくれなさそうでしたが、3月の下旬に再び気温が下がり、今も、関東地方では見ごろが続いています。桜のもとでの入学式。帰国生たちの目には、どのように映るのでしょうか。

この春、海外から帰国して、日本での生活を再始動された方も大勢いらっしゃることでしょう。帰国生入試や編入学試験を経て、新たな学校生活を切った帰国子女のみなさんにとっては、今までの生活習慣や、学校生活との違いに戸惑うことも多いかもしれません。
新たな生活の第一歩には、なにかにつけ不安もつきものです。が、それ以上に、新たな先生や友だちとの出会いや、新鮮な体験の連続がみなさんを待っていることでしょう。1つひとつをこれからの人生の大切な宝物にしていけるように、ときめきをもって、受け入れられるとよいですね。

さて、海外子女教育支援室では、この数カ月の間、海外在住の方が、「読書を楽しみながら」「読書をとおして、美しく、正しい日本語を育てていける」教材の開発を手がけてまいりました。今、少しずつ形になってきました。もうしばらくで、みなさまのお手元にお届けできるように、日々、取り組んでいます。

いわゆる名作と呼ばれる本から、受験に頻出の人気作品など、内容のよさもさながら、日本語の表現を涵養するうえで、ぜひとも、読んでいただきたい良書を多数厳選しました。また、せっかく読んだ本の中にあらわれる語彙や表現を素通りすることなく、身につけていくための教材を用意しています。追って、詳細は、「海外子女.com」のサイト上でご紹介いたしますので、今しばらくお待ちください。

今日は、その中の作品の一つ、重松清さんの「小学五年生」の中から、「葉桜(はざくら)」にみられる表現をご紹介したいと思います。時節柄、ぴったりの作品です。

新年度を迎え、となりの県に引っ越すことになった小学五年生の少年。新しい学校にも慣れ、楽しい毎日を送ります。しかし、気になるのは、同じときに別のところに転校したユキコ。ユキコのある事情を知った少年は、ユキコへの想いを募らせていきます。そんな中、ゴールデンウィークに、一カ月ぶりに前の町を訪ねることになりました。以前の友だちとの再会、そして気になるユキコとの再会に期待を膨らませて、少年は前の学校の校庭を訪れます。
けれども、少年がそこで感じたものは・・・・・・。

「校庭の桜は、すっかり緑色に変わっていた。去年もおととしも葉桜になったところは毎日見ていたはずなのに、ほんの一カ月ぶりに見る桜は、幹のよじれ具合や枝振りが微妙に違っている気がする。」
(中略)
「少年は桜の木を振り向いた。目を細め、まなざしの焦点をゆるめても、緑色の葉っぱはピンク色の花には変わらない。来年のお花見の頃には、たぶん、この町のことはあまり思いださなくなっているだろうな、と思った。」
単なる情景描写ではありません。この小説の中では、「葉桜」は、物理的な距離が、人間の心理的な距離となってしまい、あっという間に変化してしまうことを象徴するものとして描かれているのです。桜は日本人の心といっても過言ではないですよね。
かといって、少年の心情は、けっして後ろ向きではなく、むしろ未来を見つめる姿としてちゃんと描写されていますので、まだお読みでない方は、ぜひご一読ください。
こんな形で、これから少しずつ、本の中に出てくる表現などをご紹介していきたいと思います。

2009年 中学入試に選ばれた一冊(13)

091121支援室だより

「2009年 中学入試に選ばれた一冊」

「新版ごみから地球を考える」(八太昭道著)<岩波ジュニア新書>

「地球温暖化対策基本法を制定し、2020年までに1990年比25%、長期的には2050年までのできるだけ早い時期に60%超の温室効果ガス排出量削減を実現します。」
これは、今年の衆議院選挙で大勝し、政権政党となった民主党の掲げるマニフェストです。鳩山総理は、9月の「国連気候変動首脳会合」で、この内容を表明し、12月、デンマークで開催されるCOP15を前に、地球温暖化ガスの削減に向けた日本のリーダーシップを表す、強い意思表示として国際的にも高い評価を受けました。

しかし、経済界からは、「そんなの無理」と強い反発が起きたり、これを実現するには、「各家庭の負担が最大で650万円」という試算が出されたり、実現に向けては、かなり風当たりが強いようです。

今回ご紹介するのは、八太昭道氏の「新版ごみから地球を考える」です。“新版”ということで、当然、“旧版”があります(もちろん、タイトルにはついていません)。
最初の「ごみから地球を考える」は15年前に出版され、入学試験で頻出、定番となった書籍です。「ごみゼロ社会」の実現をめざす筆者の考えが、「ごみ」研究・分析に関するデータとともに著されています。新版は、当初、これに近年の地球温暖化への関心の高まりを受けて、その内容を書き足す目的で改訂される予定だったのが、結果として全面的に書き直したものになったそうです。

温暖化をはじめとした環境破壊によって、生物の生存が脅かされ、子々孫々の時代に、希望のない星になってしまう恐れがあります。民主党の政策実現は簡単なことではないでしょうが、地球環境問題は、われわれのもっとも身近で、もはや、猶予のない、喫緊の課題なのかもしれません。

民主党マニフェストからもう1つ。
「地球温暖化対策への配慮ある消費行動を促すため、CO2の「見える化」(カーボン・ディスクロージャー)を推進します。その一環として、電気代やガス代等の請求書や領収証にCO2排出量等の記載を推進します。」

著者の提唱する「ごみゼロ社会」。温暖化のおもな原因となるCO2は、なにも排出量を「ゼロ」にする必要はなく、生産と消費のバランスが保たれれば、さらなる温暖化は防止できるわけです。650万円の出費は(少なくとも我が家には)とても無理な注文ですが、わたしたちがすぐに行動に移せることがきっとあるはずです。「電気」「ガス」の無駄、みなさんの家庭ではないと言い切れますか? わたしのうちは、ま~だまだまだ頑張る余地がありそうです。

【2009年入試で出題のあった学校】
・東京学芸大附属竹早中学(国立・東京都)

2009年 中学入試に選ばれた一冊(12)

091116支援室だより

「2009年 中学入試に選ばれた一冊」

「ちゃんと話すための敬語の本」(橋本治著)<ちくまプリマー新書>

これを読んでいる、現在、まだ学生であるみなさんに質問です。

Q1:授業がはじまるときに、廊下の向こうからやってくる先生を見て、「先生がいらっしゃったよ」と言ったことがある人!

それから、現在はすっかり大人になってしまい、しかも、今、子育て中のお父さま、お母さまで、自身のお子さまの言葉づかいはちゃんとさせたいとお考えの方に質問です。

Q2:自分自身は子どもの頃にちゃんと「先生がいらっしゃったよ」と言っていたと、胸を張って言える人!

たぶん、どちらの質問も、“YES”の回答率は、一割に満たないような気がしているのですが・・・・・・。
かく言うわたし自身は、長年国語の講師をしていて敬語の指導もちゃんとやってきましたけれども、正直に告白しますと、子どもの頃に「先生がいらっしゃった」などとは、一度も口にしたことはありません。

本日ご紹介する「ちゃんと話すための敬語の本」。著者は、橋本治氏(「こち亀」の「秋本治」さんではありません)。小説、戯曲、舞台演出、エッセイなど幅広いジャンルで執筆に活躍するライターさんです。一言でいうと、この本は「おもしろい」

敬語に関する書籍は、多くのものが、「現代の日本人は正しい敬語の使い方がなっていない」「こういう表現は誤り」「正しく美しい敬語表現を身につけよう」という類の啓蒙本です。教科書だって、受験参考書・問題集だって、「尊敬語・謙譲(けんじょう)語・丁寧(ていねい)語」の違いを詳しく説明して、こういうときには、こんな敬語表現を使わないといけませんよ、でないと入試でも×ですよ、という指導をします。これはこれで国語の指導としては当たり前であり、将来的に社会人生活を円滑に進めていくためには、必要な教育であることに違いはありません。

しかし、本書は、まえがきにも書いてあるとおり、「正しい敬語の使い方を教える本」ではなく、「いったい敬語ってなんなんだ?」ということを十代はじめの読者に考えさせる本なのです。「敬語っていったいなんなんだ」ということを考えて、「やっぱりないと困るから、みんながそれぞれ正しい敬語の使いかたを考えてください」というのがこの本のねらいです。

「敬語は『人と人との距離』の問題」「敬語というのは古い時代の言葉」「日本語の二人称の問題」など、こんなに身近な問題なのに、あまり掘り下げられない敬語の歴史的背景や、側面的な特徴をわかりやすく解説し、「自分の人生をメチャクチャにしないためにも、『丁寧の敬語を使う必要はある』と思ってください」と、「あとがき」では述べています。

「お花に水をあげる」とか、「おっしゃられる」とか、間違った表現ばかりに注意が向きがちな敬語の問題(実際の入試問題でもそう)ですが、「なるほど~」と思える納得の一冊でした。

ちなみに、中学受験で出題される「敬語の問題」に関しては、「中学入試ワンポイント」でご紹介していますので、ぜひご覧になってください。ご利用には会員登録(無料)が必要ですけれども。

【2009年に出題のあった学校】

玉川学園(東京都)

2009年 中学入試に選ばれた一冊(11)

091114支援室だより

2009年の中学入試で出題された書籍をご紹介する「中学入試に選ばれた一冊」。本日は「どの出版社からのセレクトが多いか!」の続編をお届けします。

前回(11月7日)に、【岩波ジュニア新書】【ちくまプリマー新書】からの採用がとても多かったということで、論説・評論系の文章を選ぶときにこれらの出版元を参照されるとよいということをお書きしました。今回はここに続いて多かった出版社(出版元)をご紹介したいと思います。入試問題の出典として採用されている書籍には、ずいぶん以前より出題頻度の高いものから、最近出版されて今年はじめて出題されるものまで含まれています。学校の先生方は、他校の入試問題を研究したり、参考にしたりすることもありますので、最近のものでまた来年も出題されるということが往々にして起こりうるのです。しかも、第5回でご紹介した「橋をめぐる(橋本紡著)」のように、中学入試で出題される作品は、高校入試でも出題頻度が高いという傾向がありますので、中学受験生だけでなく、中学生にもぜひ読んでおいてほしいものばかりです。

【講談社現代新書】 5タイトル 6校
1)「日本人はなぜキツネにだまされなくなったか」(内山節) ※田園調布学園・香蘭女学校
2)「子どものための哲学」(永井均) ※渋谷教育学園幕張
3)「勝負脳の鍛え方」(林成之) ※城西川越
4)「悪の対話術」(福田和也) ※浦和明の星
5)「倫理という力」(前田英樹) ※早稲田実業

【新潮社】 6タイトル 6校
1)「明るい旅情」(池澤夏樹) ※公文国際
2)「書写のススメ」(石川九楊) ※白百合学園
3)「春の数え方」(日高敏隆) ※横浜富士見中等教育学校
4)「セミたちと温暖化」(日高敏隆) ※横浜共立学園
5)「人間はどこまで動物か」(日高敏隆) ※佼成学園
6)「日本語 表と裏」(森本哲郎) ※青稜

【講談社】 4タイトル 5校
1)「時間とは何か」(池内了) ※茗溪学園・関東学院
2)「科学の扉をノックする」(小川洋子) ※栄東
3)「おもしろくても理科」(清水義範) ※東京成徳大中学
4)「イルカが知りたい」(村山司) ※お茶の水女子大附属

※上記著作のうち、「春の数え方」「日本語 表と裏」「時間とは何か」「おもしろくても理科」は、中学入試定番といってもよいでしょう。

2009年 中学入試に選ばれた一冊(10)

091113支援室だより

「2009年 中学入試に選ばれた一冊」

「思考の整理学」(外山滋比古著)<ちくま文庫>

外山滋比古さんといえば、周知のとおり、大学受験・高校受験でも論説・評論文の問題で、その著書が多数出題される方です。「日本語の論理」「日本語の個性」「ことばの作法」などなど、中学入試でもこれまで多くの著書が登場しており、中学受験対策のテキストにも必ず登場します。

今回ご紹介する「思考の整理学」は、1986年初版(筑摩書房)ですから、実は発刊からすでに23年の歳月が流れていることになります。それが、なぜ近年の中学入試をはじめ、高校入試でも出題されるようになったのでしょうか。

2006年までの10年間での発行部数17万部であったこの本は、ある書店の店員さんが手書きのPOPで「もっと若いときに読んでいればよかった・・・そう思わずにはいられませんでした」というコピーをつけて売り出したところ、人気に火がつきはじめ、出版社が全国にそのコピーを採用したところ、1年間で50万部を越すヒットとなったということです。

http://www.chikumashobo.co.jp/special/shikounoseirigaku/

今、書店の文庫コーナーでも平積みで売られていますが、現在のコピーは、「東大京大で一番読まれた本」です。このコピーによって、今年は再び販売を加速させてついに100万部を越す本になりました。

大学入試や高校入試で出題されるものを小学生に理解させるなんて、無茶な話のようですが、中学受験では当たり前といえば、当たり前のことです。この本は、一つの文章が3000字~4000字でまとめられているので、試験時間に適しているというところもあります。しかしながら、もっとも重要なところは、さまざまなテーマに即して、どの方向にベクトルを向けて思考することが人間にとってプラスなのかを簡潔に、しかも、ご自身の経験を交えて、論理的かつ達意平明に書かれてあるので、実にわかりやすく読みやすいという点です。

「一般に、学校教育を受けた期間が長ければ長いほど、自力飛翔の能力は低下する。」
「頭をよく働かせるには、この“忘れる!”ことが、きわめて大切である。」

瞠目に値する思考の整理法が、明晰な文章で綴られています。

【2009年入試で出題のあった学校】
・麗澤(千葉)・春日部共栄(埼玉県)

2009年 中学入試に選ばれた一冊(9)

09112支援室だより

「2009年 中学入試に選ばれた一冊」

「いのちをはぐくむ農と食」(小泉武夫著)<岩波ジュニア新書>

2009年の中学入試で出題された書籍をご紹介する「中学入試に選ばれた一冊」。前回から論説・説明文で採用された著書をご紹介しています。本日は、その2回目「いのちをはぐくむ農と食」をご紹介します。

以下の問題をご覧ください。

Q1:H20年の日本の食料自給率は41%か、65%か?

Q2:日本と同じ方式で食料自給率を算出している国は1カ国だけである。YESかNOか?

Q3:残飯を減らせば、食料自給率は上がる。YESかNOか?

Q4:小麦の自給率は14%だが、これは生産額で算出している。YESかNOか?

解答は、これからの説明をお読みいただければおわかりいただけます。
食料自給率については、1960年に80%近かった数字が、1993年にはじめて40%を割り込むなど、この十数年間、おおむね40%ほどで横ばい状態になっています。そこで、入試問題の社会でも、近年時事問題として、「食料自給率」に関する出題が増えてきました。しかし、この食料自給率の算出方法については、複数の方法があることはあまり知られていないと思われます。以下の方法です(農林水産省ウェブサイトより)。

●「カロリーベース総合食料自給率」
1人1日当たり国産供給熱量(1,012kcal)÷1人1日当たり供給熱量(2,473kcal)=41%

●「生産額ベース総合食料自給率」
食料の国内生産額(10.0兆円)÷食料の国内消費仕向額(15.3兆円)=65%

つまり、「カロリーベース」では、41%だが、生産額で見ると、65%である、ということになります。このうち、一般的に認識されている自給率は、「カロリーベース」のほうです。しかも、「1人1日あたりの供給熱量」の値のあり方に注目してください。実際に1人1日あたりに「消費」しているカロリーではありません。この「供給されている熱量」のうち、1日に摂取する平均カロリーは、1,805kcalであり、700kcalが残飯やコンビニエンスストア、レストランなどで食べられることなく廃棄されている食料なのです。ですから、分母を1,805kcalで割りなおすと、カロリーベースでも56%まで数字があがります。ということは、わたしたちが食べ残しを減らし、外食の機会を減らすことによって、食料自給率は格段によくなるということがわかります。このカロリーベースの食料自給率を自国で算出しているのは、日本を除けばお隣の韓国のみで、比較対照として主要先進国の自給率が取り上げられますが(たとえば、オーストラリア237%)、これは日本の農林水産省が独自に算出している数字で、各国から出された数字ではありません。

また、「品目別自給率」というのがあります。これは、小麦や米などの、個別の自給率のことです。算出は、重量ベースです。すなわち、「国内生産量(トン)÷「国内消費仕向量」(トン)で計算されるのです。H20年の小麦では、88.1万トン÷608.6万トン=14%でした。

このように自給率としてわたしたちの頭にインプットされる数字には、表には表れない意味が隠れています。

食料自給率は、低いよりも高いほうが望ましいに違いありませんし、国民の70%以上が高くなることを臨んでいるという世論調査の結果もあります。ただし、自給率の問題は、国内産を増やして、輸入を減らせばよいという単純なものではなく、ふだんのわたしたちの食生活も深く関与しているということなど、1人ひとりが関心を高め、実態をよく理解し、わたしたち自身が取り組めることに目を向けていくことも必要だということなのです。

たいへん前置きが長くなりましたが、こうしたことから、国語の入試問題でも、「環境問題」と同様、わたしたちの身近な問題として文章に取り上げられる機会が増えているように思います。
「いのちをはぐくむ農と食」の著者は、東京農業大学の教授を長く務め、2009年の春に退官されました。日経新聞で「食あれば楽あり」を十数年にわたり連載されているので、ご存知の方も多いと思います。

【2009年入試で出題のあった学校】
・湘南学園(神奈川)・城北(東京)・日本大学第三(東京)

 

2009年 中学入試に選ばれた一冊(8)

091107支援室だより

2009年の中学入試で出題された書籍をご紹介する「中学入試に選ばれた一冊」。昨日から論説・説明文をご紹介しています。今日は、ちょっと視点を変えて「どの出版社からのセレクトが多いか!」をご紹介したいと思います。たぶん、このような切り口で、本をチョイスする、読んでみるということはほとんどないと思われます。わたし自身もこれまでにこうした観点から選書するということを試みたことがありませんでした。案外、本を選ぶ一つの指標として有効かもしれません。

2009年度の中学入試124校の、論説(評論)・説明文の出典を調べました。もっとも出題の多かった出版元は「岩波ジュニア新書」で17校。続いて「ちくまプリマー新書」が12校。「講談社現代新書」「新潮社」が6校で、「講談社」(5校)「筑摩書房」(4校)「岩波新書」「中公新書」「角川oneテーマ21」(各3校)などから選ばれています。出版社は一つでも、たとえば、「岩波書店」では「岩波アクティブ新書」「岩波ジュニア新書」「岩波新書」など、編集部が異なると背表紙に書いてある出版元も異なり、それぞれ書店での配置場所も異なりますので、ここでも編集ごとに区別しました。
「うちの子は、物語は好きでよく読むけれども、説明文や論説文はさっぱり。なにを読ませればよいかもよくわからない・・・・・・」という方は、これを参考にして本選びに役立てていただければ幸いです。

では、今年出題の多かった出版元の著作を列挙してみましょう。
※順不同です。

【岩波ジュニア新書】 15タイトル 17校
1)「地球は火山がつくった」(鎌田浩毅) ※大妻嵐山
2)「自然をつかむ7話」(木村龍治) ※筑波大附属
3)「いのちをはぐくむ農と食」(小泉武夫) ※湘南学園・城北・日本大学第三
4)「遺跡が語る日本人のくらし」(佐原真) ※独協
5)「目を閉じて心開いて」(三宮麻由子) ※共立女子第二
6)「野生動物と共生できるか」(高槻成紀) ※女子聖学院
7)「地球がわかる50話」(島村英紀) ※日大豊山
8)「いま、きみを励ますことば」(中村邦生) ※日大豊山女子
9)「絵の前に立って」(中山公男) ※鎌倉学園
10)「身体感覚をひらく 野口体操に学ぶ」(羽鳥操・松尾哲矢) ※巣鴨
11)「生きものの地図をつくろう」(浜口哲一) ※聖望学園
12)「働くって何だ」(森清) ※帝京
13)「環境とつきあう50話」(森住明弘) ※東海大浦安
14)「コミュニケーションの日本語」(森山卓郎) ※多摩大目黒
15)「新版ごみから地球を考える」(八太昭道) ※東京学芸大竹早

【ちくまプリマー新書】 7タイトル 12校
1)「見えざる手が経済を動かす」(池上彰) ※洗足学園
2)「未来形の読書術」(石原千秋) ※渋谷教育渋谷・早稲田
3)「先生はえらい」(内田樹) ※埼玉平成
4)「自分のためのエコロジー」(甲斐徹郎) ※かえつ有明・京華
5)「おやようからおやすみまでの科学」(佐倉統・古田ゆかり) ※帝京大学中・東洋英和女学院
6)「友だち幻想」(菅野仁) ※聖光学院・大妻多摩・立教女学院
7)「ちゃんと話すための敬語の本」(橋本治) ※玉川学園

今後毎年、同様のデータを収集して行きます。

2009年 中学入試に選ばれた一冊(7)

091106支援室だより

2009年の中学入試で出題された書籍をご紹介する「中学入試に選ばれた一冊」。今回からは、論説・説明文をご紹介していきたいと思います。

「友だち幻想」(菅野仁著)<ちくまプリマー新書>

本書は、
第1章 人は一人では生きられない?
第2章 幸せも苦しみも他者がもたらす
第3章 共同性の幻想―なぜ「友だち」のことで悩みは尽きないのか
第4章 「ルール関係」と「フィーリング共有関係」
第5章 熱心さゆえの教育幻想
第6章 家族との関係と、大人になること
第7章 「傷つきやすい私」と友だち幻想
第8章 言葉によって自分を作り変える
の8つの章で構成され、「友だち」のことで悩んでいる若い読者への「人と人とのつながり」について見直すきっかけを提示しています。

著者は、現在、宮城教育大学教育学部の教授で、専攻は「社会学」。筆者は、序文にあたる「はじめに」で、「友人重視志向」の日本の高校生について触れています。日本、アメリカ、中国、韓国の高校生に「若いうちにぜひやっておきたいことは何か」という質問をしたところ、日本の高校生は、「一生つきあえる友人を得たい」「人間関係を豊かにしたい」という回答の割合が他の三国に比べて突出していたそうです。一方で、現実にあるいじめや引きこもりなどの社会問題。人との親しいつながりを重視すると同時に、人間関係に悩み、問題を抱える、特に若い世代の人たちに、専門である社会学の見地から、「現代社会に求められる親しさとはどのようなものか」をとらえ直す「見取り図」を描いています。

第1章では、「人は1人では生きられない?」という問いかけに対して、「1人でも生きていくことができてしまう社会だから、人とつながることが昔より複雑で難しいのは当たり前だし、人とのつながりが本当の意味で大切になってきている」と述べ、「つながりの問題は、こうした観点から考え直したほうがよさそう」だと続けています。

さて、著者が対象と考えているのは、高校生くらいの世代の、まさに、友だち関係に悩んでいる人たちだと思いますが、中学入試で出題されているところに、この友人関係に関する現代日本の問題が、さらなる若年層にも及んでいるということも考えられます。各章の中には、「心が休まらない『メール即レス』」や、「同調圧力-友情が脅迫になる」「『話せばわかる』も幻想」「恋愛こそ幻想を持ちやすい」など、インパクトのある小見出しが踊っていますが、内容は、若い世代向けということで、ひじょうに分りやすい、ソフトな文体で書かれていますし、専門用語の羅列でやたら格式ばった文章ではありませんので、小学生高学年であれば読みやすいのではないかと思います。

海外に長くいらっしゃって、帰国後の生活がまだ短い方、もしくは、現在も海外にいらっしゃる方、日本の若い世代の人たちがどんなふうに人間関係に悩み、そして、どんな問題をかかえているのかを知る手がかりにもなりそうです。

【2009年入試で出題のあった学校】
・聖光学院(神奈川県)・大妻多摩(東京都)・立教女学院(東京都)

2009年 中学入試に選ばれた一冊(6)

091102支援室だより

「あかね色の風」(あさのあつこ著)<幻冬舎文庫>

今日ご紹介するのは、「バッテリーシリーズ」でおなじみのあさのあつこさんの作品です。もう中学受験界では、定番中の定番となっている「バッテリー」。今年も頴明館中学で出題されています。中学受験とは関係なく、ふつうに多くの小学生にも読まれている児童文学の傑作です。今日はバッテリーではなく、「あかね色の風」をご紹介いたします。

2009年の中学入試では、千葉県市川市の市川中学東京都杉並区の女子美術大学付属中学で出題されました。

前回までご紹介した作品に共通した設定に「受験生と同世代の主人公」と「おじいちゃん・おばあちゃん」というのがありました。しかし、「あかね色の風」のテーマは「女の子の友情」です。

以下作品紹介です。
「陸上部で怪我をして自棄になっている遠子のクラスに転校生の千絵がやってきた。複雑な家庭の事情も屈託なく話す千絵に、遠子は不思議な魅力を感じる。」(作品紹介より)

これまで紹介した作品は、子どもたちに必要な大人の暖かな目線、心のふれあいをテーマに描かれていましたが、この作品では、どちらかというと、大人たちの理不尽な面を、器用に処理できない主人公が、自分とはタイプの異なる転校生、千絵との出会いによって、成長するというストーリーです。

こんな場面があります。
陸上の地区大会で、1000メートルからハードルに種目変更を顧問から指示されます。懸命に練習して、徐々に記録が伸びてきた頃に、ハードルが競技からなくなったために、また1000メートルへの出場を指示される場面で、顧問がいいます。
「な、なにをやっても無駄なことは、ないんだ」

また千絵の好きな化石の出た場所を見るために、山を越えて辿り着きますが、見張りのおじさんに現場に入るのを断られる場面で、あきらめようとする千絵に「あきらめたら一日無駄になる」と遠子が諭す場面で、千絵が言います。
「うちには、無駄やなかったよ。北川さんとあの山越えて、ここにこれて、よかったと思うてる。」

顧問も千絵も同じことを言いますが、遠子の胸に響くのは・・・・・・。

前回までの作品は、どちらかといえば大人向けに書かれたもので、この作品は、それこそ、小学生に向けて書かれていますから、ここに描かれた遠子や千絵のことば。ストレートに子どもたちの胸に届きそうです。